エロス断想

猫と美人を描いてゐます

詩文

美しさと礼節と

あなたの声が 朝日に照り映えて、茜色に染まった鰯雲の合ひ間を縫って この街のすみずみにまで ゆったりと沁み込んでゆきます 私はあなたの声が好き 少し鼻にかかった甘い声 透明感のある感情豊かな声 あなたはまだ若いから 彼のやうなスキルも無く 彼女のや…

彼は悪魔だらうか?

彼は悪魔だらうか? いや、ユーモアのセンスが欠けてゐる 彼は悪魔だらうか? いや、彼は退屈な男だ 彼は悪魔だらうか? いや、彼には知性がない 一通のラヴレタアも書けないではないか 彼は悪魔だらうか? いや、悪魔は自分の欲望を満たすことだけを目的と…

金星の夢

水蒸気製のつばめのやうに あなたの微笑みが軽々と 金星の花園で踊ってゐる菜食主義の人喰ひ豹は エメラルドの涙を落しつつ 気弱に、か細く吼えてゐる薔薇色の微笑みよどうかお願ひですから 私の唇に舞ひ降りて下さい あなたの輝くシロップで 私の牙をいやし…

ノクターン

かうしてゐる間にも 薔薇は匂ってゐるそれを想ふと 居ても立ってもゐられなくなるどこかで ひっそりと咲く薔薇のために 私は恋の詩をつづる夜は・・・ 薔薇のやすらかな寝息と 眠れぬ詩人のため息と夜は無情に更けてゆく

ジップとピノン

月曜日に――― あの春雨の降った月曜日に、お渡ししたいものがあったのです。 それは、フリージアの花束と一冊の絵本。 水色の表紙の、たった二十二ページしかない、薄っぺらな絵本。 私の手作りの絵本でした。主人公は二人の白ウサギ。 男の子の名前は、ジッ…

かけら

あと百年もたてば 私の愛も風化してしまふのだらうか たった百年で!? §私は地獄に舞ひ戻ってきた 自らの意志で薔薇の花は天国ではなく 地獄に咲くものだから §或る詩人と恋について議論したが なかなか見解が一致しなかった 二人とも死体だからね §人は平…

子猫のおとむらひ

子猫が一匹死にました 罪なき子猫よ おまへの為に詩を書かう∴公園の駐車場に、三匹の子猫が居付くやうになったのは一ト月ほど前 母猫の姿はなく、生後まもなく捨てられたのに違ひない 私は、毎日のやうに公園に通ひ、こっそりと子猫たちにキャットフードを運…

かなしいきぶん

僕からあふれ出た愛が ルリ色の雨粒となって あとからあとから この街に降ってゐるこの街の人たちは そんなこと気にもしないで 僕のかなしいきぶんを浴びながら 夕餉の支度なんかしてゐるんだらう「幸福は犠牲の上に成り立つ」誰かが幸せになるためには 僕が…

冷たく吹きすさぶ木枯らしに あなたが打ちひしがれた時 思ひ出してください 僕の厚い胸を一寸先も見えぬ八重霞に あなたが迷ってしまった時 思ひ出してください 僕の広い胸を僕の胸は 何もかも許す胸あなたのための あたたかな胸

ミルクキャンディー

今日は、あなたにお菓子を差し上げます ノンカロリー、虫歯の心配もなし 特製「Poetic Sweets」を召し上がれ!まづは、濃厚な味のタルトクッキー 少し固めの生地に、マカダミアナッツ、アーモンド、クルミ、レーズンを乗せ、溶けたキャラメルをたっぷりとか…

月光

月の満ち欠けなど錯覚 満月も三日月も月は月月が ずっと満月のままだったら 或いは月など無かったら それはそれで幸せだったかも知れないしかし 今夜も月は独り苦しんでゐる太陽を 無邪気に信じる人間どもめ!月光は月の悲鳴今夜も月は独り苦しみつづける

酔ひどれ詩人

I taste a liquor never brewed ――― Emily Dickinson未だ醸されぬ酒を、私は味はふ・・・ エミリ・ディキンソン §彼女は月光のシャンパン 酌めども尽きぬ美しさ 如何なる美酒も及ばぬ味二年前に彼女を見初めてから 私は、ずっと酔ひつづけてゐる 何といふ心…

珈琲

珈琲さへ飲まなければ子供は死ななかった珈琲さへ飲まなければ指は無くならなかった珈琲さへ飲まなければ妻を刺さずにすんだ珈琲さへ飲まなければ珈琲さへ飲まなければぐっすりと眠れた珈琲さへ飲まなければ面接に受かった珈琲さへ飲まなければ胃癌にならな…

湖水のほとり

凍りかけてる湖水のほとりで ゆらゆらゆれてるあれは何?あれは仔牛の頭蓋骨 あれは仔牛の頭蓋骨ポッカリ開いた眼窩から 無常があふれ出てゐます冬冬冬冬 仄かな幽かなあの音は?季節はづれの雹が降り 骨をいぢめてゐるのですあの骨は泣いてゐるのか知ら?言…

明日を信じてはいけません

愛しい人よ明日を信じてはいけません 確かなのは今日だけです 大切なことを先延ばしにしてはいけません 明日が来るといふ保証はどこにもないのです しをれぬ薔薇などありません しをれぬ薔薇などまがひもの愛しい人よ将来を語る男を信用してはいけません 今…

或る若き詩人へのメール

こんばんは。 私は詩論なんて苦手なのですが、お尋ねの「詩人とは何か」といふ件について、僭越ながら私見を申し上げます。「詩人」とは「詩を書く人」です。 では、その「詩」とは何か。 「詩」とは、単純に言へば「言葉の芸術」です。 「聴覚の芸術」が「…

色彩の硬度 薔薇教 蒼ざめる猫笛 真剣な歯 息を飲む憂鬱 残された 名も無き関はり 受肉のパースペクティヴ キュートな嘘 感電 双月 性的方向指示器 切り取られた刹那 ペディキュアと枝毛 一途な彷徨 眉の熱 信頼すべき声

詩人であるといふだけで

詩人が、倦怠したこの世に現れる時――― ボオドレール §あくびこそ仇敵 あくびこそ諸悪の根源 あくびから虐待が始まる 全ての悪徳は暇つぶしなのですあなたが遊ぶ時、心から楽しんでゐますか? 閑だから、他にすることがないから、遊ぶのでは?退屈は心を蝕み …

詩人の恋が終はる時

月がポキリと折れてゐる 誰かが失恋したやうだ静粛に! 静粛に! 詩人が失恋したぞ! あいつめ、どんな詩を書くだらう?恋が終はりかけると、きっと彼が現れる 優美なアンドロギュノス 永遠の十七歳「二十年前の約束を憶えてる?」泥炭の底から野次が飛ぶ 無…

祖母の肛門に指を突っ込んだ日

毎週末、私は長期入院してゐる祖母を見舞ふ。 今朝の祖母は、あまり調子が良くない様子で、口数も少なかった。 私は、いつものやうに、ポータブルトイレの処理をしたり、入れ歯を磨いたり。 一通り世話をし終へると、祖母は、おづおづと私に言った。 「痔の…

凍れる詩人 又は、冫(にすい)の詩

§今朝はとても寒かった 明後日は立春だといふのに、何といふ寒さだらう あまりに寒かったので、私の舌は凍りついてしまった 物言へぬ詩人に存在価値など無い―――死んぢまへ!―――実に冷たい朝だった §美しい氷の女王に会ひました 彼女は微笑みながら、冬薔薇に…

詩人に100の質問

001 ペンネームは? 三州生桑です。サンシウセイサウと読みます。 002 その由来は? 以前に住んでた所の地名から。 003 座右の銘は? 明日を信じるな。 004 好きな食べ物は? 何でも食べます。焼きそばUFO以外は。 005 今読んでる本は? ポーとタゴールの詩…

望み絶ゆるうた

うろこ無き大蛇は 盲目の青き馬にからみつきたり 月いづくにかあらむ 月すでに落ちぬ 花はつぼみのままに立ち枯るる はや花は咲かざり 青き馬は倒れ臥し 大蛇は地中にもぐらんとす はや花は咲かざり 風冴ゆる 風冴ゆる さらば我は独り病みたる詩を書かむ 誰…