エロス断想

猫と美人を描いてゐます

祖母の肛門に指を突っ込んだ日

毎週末、私は長期入院してゐる祖母を見舞ふ。
今朝の祖母は、あまり調子が良くない様子で、口数も少なかった。
私は、いつものやうに、ポータブルトイレの処理をしたり、入れ歯を磨いたり。
一通り世話をし終へると、祖母は、おづおづと私に言った。
「痔の軟膏を塗ってくれんかねぇ・・・」
そんな頼みごとをされたのは、初めてだった。余程苦しかったのだらう。
「うん、いいよ」
私は快く引き受けた。

薄いゴム手袋を右手にはめ、ひんやりとした軟膏を中指に付ける。
祖母を横向きに寝かせ、おむつを下げ・・・。
「ここでいいの?」
と私が訊くと、祖母は、
「中! 中!」
と忙しなく応へた。
阿屎送尿(あしそうねう)、著衣喫飯(ぢゃくえきっぱん)といふ禅語が脳裏をよぎる。

「悪かったねぇ。ごめんねぇ」
「どうってことない。このくらゐ、僕でもできます」
祖母の機嫌は直ってゐた。
「それぢゃ、明日また来ますね」
病室を出て、エレベーターに向かって歩いてゐると、不意に佳い香りが鼻をつく。
ナースステーションのデスクの上の牛乳瓶に、水仙が数本活けてあるのだった。
花は咲くべきところに咲くのだ!
私は、とてもすがすがしい気分だった。
もし私に孫ができたとして、その孫は快く私の肛門に指を突っ込んでくれるか知ら? 
そんな、益体も無い事を考へながら、私は帰途についた。