エロス断想

猫と美人を描いてゐます

詩人の恋が終はる時

月がポキリと折れてゐる
誰かが失恋したやうだ

静粛に!
静粛に!
詩人が失恋したぞ!
あいつめ、どんな詩を書くだらう?

恋が終はりかけると、きっと彼が現れる
優美なアンドロギュノス
永遠の十七歳

「二十年前の約束を憶えてる?」

泥炭の底から野次が飛ぶ
無神論者め!

「あなたを詩人にしてあげる」

呪ひだ!

「その代はり、あなたの愛する人は必ず不幸になる」

微笑み あの微笑み
何と蠱惑的な・・・

「子供なんか作っちゃだめだよ」

魂を売りやがった!

二十年前に出会ったメフィストフェレスは美しい少年の姿をしてゐた

彼の言葉は風に舞ふ黒真珠
コバルト色の薔薇の花びら
半透明のヴァニラアイス
香水のしたたる巨大な蜘蛛の巣

「詩人になりたいの?」

微笑み

「ねえ、詩人になりたいの?」

あの微笑み
何と蠱惑的な・・・