月曜日に―――
あの春雨の降った月曜日に、お渡ししたいものがあったのです。
それは、フリージアの花束と一冊の絵本。
水色の表紙の、たった二十二ページしかない、薄っぺらな絵本。
私の手作りの絵本でした。
主人公は二人の白ウサギ。
男の子の名前は、ジップ。
女の子の名前は、ピノン。
ジップは青緑色の、ピノンはオレンジ色のチョッキを着てゐます。
彼らはぴょんぴょん跳ねながら、あどけない詩を詠ってゆくのです。
こんな具合に。
§
『お月さまのホットケーキ』
ジップとピノンが、まん丸い月を見てゐます
「食べよう!」
「食べよう!」
「お月さまのホットケーキ!」
ないしょ話しのシロップかけて
くすくす笑ひのバターをのせて
「おいしい!」
「おいしい!」
「お月さまのホットケーキ!」
ホットケーキがおいしいのは
二人で食べるからですよ
一人で食べてちゃつまらない
仲良く二人で食べませう
§
あなたが、この絵本のページを繰って、微笑むところを見たかったのです。
何と愚かな妄想でせうか。
私は本当に馬鹿です。
この絵本は捨てました。もうありません。
ジップとピノンは、微笑みとともに、どこかへ行ってしまひました。
あなたも【ジップとピノン】を捨ててしまひましたか?