エロス断想

猫と美人を描いてゐます

北杜夫

快晴、秋高し
カシオペア座見る


北杜夫死す…彼の死によって、私の中の『昭和』が完全に終はった。ムラカミハルキなどより、北杜夫の方がはるかにノーベル賞にふさはしい作家だ。もうこんな味はひ深い文体をつづる作家は現はれまい
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失はれてゐた過去をさぐることは、ぼくにとって自己の実体についての解明であり、頭のなかのくりごとではなく、生身に密着した生理的な行事ともなってゐた。原っぱのみづみづしい雑草のつらなりを、幾多の不可思議な虫の形態を、応接間にたちこめたなまめかしい漆黒を、とうに世を去った血縁のひとびとを、ぼくは憶ひおこすことができた。自然に対する自分の郷愁が、それぞれの原型をもつことをも、おぼろげながら理解することができた。その背後には、石碑のならんだ墓地の雰囲気、〈死〉の影がつきまとふがゆゑに、僕の前に展かれた〈自然〉があれほどまでに甘美に心に沁みわたるのだといふことも。
北杜夫『幽霊』
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子猫画、鉛筆、7分
ハイッ

美人図、鉛筆、赤鉛筆、45分