エロス断想

猫と美人を描いてゐます

外面如菩薩

曇りのち晴れ

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電柱のところで、白い着物の人の足がとまった。捨て猫の入ったボール箱をのぞき込んでゐる。想像通り、垢ぬけした美しい横顔だった。と、いきなり、その人は、片足をあげるとボール箱を側溝に蹴落とした。踊りの所作を見てゐるやうだった。白い着物は何事もなかったやうに前を歩いてゆく。私はぼんやりと立ってゐた。暑い日ざしのなかで、それでなくとも弱ってゐる仔猫は、あと半日保たないかも知れない。ひと思ひにかうするはうが情けといふものである。だが、鮮かに形のキマッた白足袋には、仏心は微塵も感じなかった。
向田邦子『女の人差し指』
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向田邦子のエッセイは、恐らくほとんど創作だらう。不自然なほど面白すぎる

美人図、鉛筆、1時間弱



『三州生桑詩画集猫のパンセ』
■三州生桑HP■