エロス断想

猫と美人を描いてゐます

ある人の生のなかに

快晴、日差し強し、風冷ややか
桜三分咲き

川端康成『ある人の生のなかに』読了。ほぼ晩年に仕上げられた傑作。やたらと女性の登場人物が多いのは、谷崎の『台所太平記』の影響か。ラストの処理が神懸り的に素晴らしい…『細雪』のラストに匹敵する余情。小説は、終はり方次第だね

うつ向いてゐた三枝子が顔をあげた。目のまはりから頬も少しはれぼったいやうで、生気がなかった。御木ははじめて、三枝子がさう美しくないと思った。少なくとも三枝子の顔の抒情は失はれて散文的に見えた。三枝子も金のことで心をいため、そのために今日はやよひと出歩いて気づかれしてゐるのだらうが、かういふ時、その金に責任のある立場にゐてさへ、御木は三枝子がはじめて美しく見えないことに失望を感じる自分におどろいた。
§
それは女が衰へたのか
男が心変はりしたのか


■三州生桑HP■
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