エロス断想

猫と美人を描いてゐます

ある女

強雨のち晴れ、夜大風
ゼラニウムの植ゑ替へす
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またある女は、彼が戯れにうしろから抱くと、動かなくなってしまった。またある女は、床の中で眠ったふりをしてゐる時彼が手を握ると、唇をうんとつぐみからだをこはばらせて反り返った。またある女は、深夜彼がゐない間に彼の部屋に縫物を持ち込んで石のやうに坐り込みながら、彼が戻って来ると、耳まで赤くして、電燈をお借りしてゐますのよ、と言ふ奇妙な嘘を咽にひっかかるしゃがれ声で言った。
川端康成『月』
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「前髪がつぶれるから、帽子は帰り道でだけかぶることにしてるの」女の表情は、大きなつば広帽で見えなくなった。「あなたと結婚したら、どうなるの」「君のことを詩に書くよ」女の肩が震へる。笑ってゐるのか、怒ってゐるのか。乱暴に帽子を取り上げると、女は泣いてゐた。「前髪がつぶれちゃったわ」
Twitter140字小説
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つば広帽子をかぶる美人、鉛筆、30分




無視と嘲笑で
傷つけられた心を
どうやって
癒せばいいのだらう…


きっと
詩や芸術は
そのためにあるのだらうな


■三州生桑HP■
http://www.h4.dion.ne.jp/~utabook/