エロス断想

猫と美人を描いてゐます

詩や夢

晴れ時々曇り、無風、朝のうち冷えるが午後は春の如し
猫数匹に缶フードなど。みな空腹の様子


谷崎潤一郎夢の浮橋」再読。本文よりも解説に興味をひかれる。谷崎は三度の結婚の末、やうやく理想の女性、松子夫人を得るのだが、その最愛の妻が妊娠した時、自分の芸術のさまたげになるからと中絶させる・・・。芸術の鬼なり
この中絶に関しては、最晩年の『雪後庵夜話』においても再び取り上げられるが、そこでは「結局彼女が私の言葉を容れて芦屋の某病院でその手術を受ける気になったのは、お腹の子に対する愛よりも、私と私の芸術に対する愛の方が深かったのだと、私は思ふ」といふ。「私の子の母と云ふものになったM子(松子)を考へると、彼女の周囲に揺曳してゐた詩や夢が名残なく消え去ってしま」ひ、「私の創作力は衰へ、私は何も書けなくなってしまふかも知れない」と、松子夫人の体を気づかってといふよりも、芸術を第一とする谷崎の芸術至上主義のためといふ説明に終始してゐる。


この谷崎の発言には鬼気迫るものがあるが、理解できなくはない。私は野良猫たちに詩を感じ、美人のうちに夢を見る・・・もし野性味あふれる野良猫が、怠惰な家猫に成り果ててしまったら・・・?
同じやうに、美人に漂ってゐる或る雰囲気・・・私の創作力を刺激する媚薬のやうなもの・・・が失はれ、彼女がどこにでもゐるオバサンになってしまったら・・・?
松子夫人は谷崎と一生添ひ遂げることになる。谷崎の後半生の傑作は、松子夫人なくしてはあり得なかった。彼女の愛の深さを思ふと、私はおごそかな気持ちになる


しかし・・・芸術家と結婚するもんぢゃないね
三食昼寝付き、おやつ付きでグッタリのんびりメタボリック、女を捨てたオバサンの方がラクよね







■三州生桑HP■
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