エロス断想

猫と美人を描いてゐます

神楽坂

薄雲、正午小雨降る
ハナミヅとお嬢猫にレトルトフードやる。ハナミヅは膝の上で大人しくしてゐるが、お嬢猫はすぐに降りてしまふ。まだ噛み癖が直らない


矢田津世子(1907-1944)短篇集拾ひ読み。三十七歳で夭折した美人作家。坂口安吾が惚れてゐたらしい。芥川賞候補作「神楽坂」良し。佝僂の女性・寿女スメの話も哀れで更に良し。講談社文芸文庫は薄くても高いが、このシリーズでなければ読めない、忘れられた作家を発掘してゐる
往き来の人の中には、よく振りかへってじろじろと寿女を見る人があるので、つれの娘たちは顔を赧らめて、何気ないふうに自分たちだけで話をはづませたりして行く。「あたし、とっても早足だから先きへ行って待ってるわね。ごめんなさいね」寿女はきっとこんなことを言って、真っ赤になってせいせい息を切らして、先きへ行く。せっかく誘ってやったのに、置き去りにするなんて、ずいぶんね、と娘たちは不満を洩らしあったが、「でも、ねえ、並んで歩くよりか、ねえ」とひとりが頸をすくめてちょろりと舌を出すと、みんなも頸をすくめてクスクス笑ひあった。








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