エロス断想

猫と美人を描いてゐます

青年

好天、秋
子猫の姿見えず
雨が降ったから雨宿りしてるのだらう


森鴎外「青年」再読。漱石の「三四郎」の二年後に書かれたらしい。影響が随処に見受けられる。
純一の笑ふ顔を見る度に、なんと云ふ可哀い目附きをする男だらうと、大村は思ふ。それと同時に、この時ふと同性の愛といふことが頭に浮んだ。人の心には底の知れない暗黒の堺がある。不断一段自分より上のものにばかり交るのを喜んでゐる自分が、ふいとこの青年に逢ってから、余所の交を疎んじて、ここへばかり来る。不断講釈めいた談話を尤も嫌って、さう云ふ談話の聞き手を求めることは、いさぎよしとしない自分が、この青年の為めには饒舌して忌むことを知らない。自分はhomosexuelではない積りだが、尋常の人間にも、心のどこかにそんな萌芽が潜んでゐるのではあるまいかといふことが、一寸頭に浮んだ。








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