エロス断想

猫と美人を描いてゐます

雪國

雨のち曇り。寒風強し。
猫の姿見ず。どこか暖かいところに引っ込んでかたまってゐるのだらう。


川端康成(1899-1972)「雪国」読了。読むのは3回目か。何度読んでも疎漏のない傑作。やはり三島より川端のはうが上かなぁ。鉛筆で、かなり細かい書き込みあり。「つとめて」→「尽力」、「狛犬」→「石獅」、「俄に」→「忽然」・・・恐らくは中国からの留学生が辞書を片手に読んだのだらう。漱石の「三四郎」の昔から、学生は図書館の資料に書き込みするものなのだな。
「つらいわ。ねえ、あんたもう東京へ帰んなさい。つらいわ」と、駒子は火燵の上にそっと顔を伏せた。「実は明日帰らうかと思ってゐる」「あら、どうして帰るの?」と、駒子は目が覚めたやうに顔を起した。「いつまでゐたって、君をどうしてあげることも、僕には出来ないんぢゃないか」ぼうっと島村を見つめてゐたかと思ふと、突然激しい口調で、「それがいけないのよ。あんた、それがいけないのよ」と、じれったさうに立ち上がって来て、いきなり島村の首に縋りついて取り乱しながら、「あんた、そんなこと言ふのがいけないのよ。起きなさい。起きなさいってば」と口走りつつ自分が倒れて、物狂はしさに体のことも忘れてしまった。それから温かく潤んだ目を開くと、「ほんたうに明日帰りなさいね」と、静かに言って、髪の毛を拾った。




ときめきは凍りついてしまった。




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