エロス断想

猫と美人を描いてゐます

ムッシュー・テスト

ポール・ヴァレリームッシュー・テスト」読了
詩人ヴァレリーの唯一の小説
晦渋・難解であるが、興味深い作品
かういふ作品を原語のフランス語で読めたらいいなぁ
以下抜粋
「そこで私は夢想した、最も強靭な頭脳、最も明敏な発明家、最も正確に思想を認識する人は、必ずや無名の人、己を出し惜しむ人、告白することなく死んでゆく人に違ひない、と」
「そもそも、よく知ってゐることなど、私に何の意味がある?」
「過剰なまでに昂奮させられ、酷使にうちひしがれて、脳髄は独力で、知らず知らずのうちに、必然的に、まさしく現代文学そのものを産み出してゆく・・・」
「どうだらう君、ひどく怖い気がするんだけれど、私たちは、私たちを知らぬ多くのものによって作られてゐるのではないかしら。だからこそ、私たちは私たち自身を知らないのだ。もし、さういふものが無限にあるとしたら、いかなる思索も空しいね・・・」
「私はあらゆる言葉を信用しない、少し考へてみるだけで、世間の人々が言葉を信じてゐるのが馬鹿馬鹿しく思へてくるからです」
「インスピレーション、瞑想、作品、栄光、才能、かうしたものは、見方しだいで、ほとんど全てであり、或いは、ほとんど無に還元されてしまふ」
「あの人の微笑は、拒みきれない神秘な贈り物ですし、ごくたまに見せてくれる優しい愛情は、冬に咲く一輪の薔薇です」
「似たり寄ったりのことを毎日繰り返してゐるあの人たちの愛とは、いったい何でせう」
「神なき神秘家! 光かがやく無意味!」
「君の思考を軽蔑せよ、あたかもひとりでのやうに、それらは通り過ぎてゆく。・・・そしてまだ戻ってくるのだ!」
「ねえ君、無限なんて、もうたいしたものぢゃない、それは文字の上の問題さ。宇宙とは紙の上にしか存在しない」
「それにしても、死とは何たる誘惑であることか。想像できず、しかし、欲求と恐怖の様々なかたちを交互にとりながら、精神の中に入りこんでくるもの。知的な最期。思考の葬送行進曲」
§


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