エロス断想

猫と美人を描いてゐます

ユニークな譜面

ラソン練習中の、可愛らしい女子中学生から挨拶される
「こんにちはぁ!」
「え・・・」
あっといふ間に走り過ぎてしまったから、返礼はできず
あの子はどこかで見たことがあるやうな・・・
さうだ、大学の時のクラスメイトだった、Tさんに似てゐる!


Tさんは、いはゆるお嬢さまである
両親は、大きな専門学校を経営してゐた
さうして彼女は、とても頭が良い女性であった
成績優秀で、特待生となり、学費を一年間免除されてゐた(お金持ちなのに!)
彼女とは、何度かデートをした憶えがある
恋愛関係にあったのではない
当時、私は或る年上の女性に夢中になってゐた
その恋の相談を、Tさんに持ちかけてゐたのである
彼女と話しをするのは、とても楽しかった
お互ひの恋の話しから、芸能界の話題、文学論、果ては哲学に到るまで、縦横無尽に語り合ふことができた


Tさんと私は、或るバンドのメンバーだった
私はギター&ボーカル、彼女はキーボード
件の専門学校でパーティーがあって、そこに出演するといふ話しが持ち上がり、バンド仲間とTさんの母親と会食した
その時の会話
母「あなた、シンセサイザーが欲しいって言ってたわね」
T「うん、必要なのよ」
母「何なの、シンセサイザーって?」
T「一台で、色んな音が出せるのよ」
母「いくらぐらゐするの?」
T「結構するよぅ」
母「これで足りる?」
さう言ふと、Tさんの母親は、皆の前で彼女にポンと30万円渡したのである
後で、この時のことをTさんに言ふと、
「うちの母は外面はいいのよねぇ」
と、困ったやうに笑ってゐた


彼女はキーボードを担当してゐながら、譜面が読めなかった
私は、同じバンドにゐながら、しばらくそれに気付かなかった
キーボードの調子が悪いと言ふので、私が調節してゐると、譜面と思しき紙が目に付いた
そこには、歌詞の上に「ドミソ」とか、「ドファラ」とか書いてある
目が点になった
「譜面、読めないのよ」
えへ、と彼女は恥づかしさうに微笑んだ
私も譜面は読めないが、本気を出せば「LET IT BE」くらゐは弾けるよ


ついに、私には大学時代に友人はできなかった
私の性格が悪いからである
しかし、Tさんのことは、何の嫌な感情も持たずに思ひ出すことができる
彼女は、上品で、知性的で・・・
そして何より、あの譜面!
きっと、今頃は素敵な奥さんになってゐることだらう


G・ガルシア・マルケス予告された殺人の記録」読了
何といふ緻密な構成!
完璧な小品
しかし、登場人物が多すぎる
相関図を付けて欲しかったな


■三州生桑HP■
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